① 東京地裁判決で否定されていた被告主張の骨格

東京地裁は次のように整理して被告(国)主張を退けました:

  • ① 評価通達の選択制度は納税者の権利

  • ② 軽減割合45%(併用)、35%(s1+s2)は「著しい負担軽減」に当たらない

  • ③ 通達6の適用には合理的理由が必要 → 本件では不十分

つまり地裁は、納税者の通達選択の権利行使の範囲内だと認定しました。


② 東京高裁の逆転認容で認められた可能性が高い被告主張

高裁で逆転したということは、地裁で否定された被告(国)の主張のうち、以下の部分が認められたと考えられます:

【通達6の「著しく不適当」認定の判断枠組み】

通達の選択制度があることは前提としても、
「選択結果として極端な負担軽減が生じたときは例外的に通達6が発動可能」

→ 地裁は「45%や35%は極端とまでは言えない」としたが、高裁は
「相続税制度趣旨(応能負担原則、租税回避防止)からみて相当の軽減率」
と評価した可能性があります。

✅ 高裁は、負担軽減割合について「数量的な基準に限定せず、事案の全体像で実質判断」したと推測されます。


【相続直前の資産移動の意図性】

被相続人が相続直前に多額の現預金を資産管理会社に出資 → 評価引下げ効果発生
✅ 高裁は「通達本来の趣旨を没却させる租税回避的取引の構造があった」と認定した可能性が高い

(令和4年最高裁判決の「租税回避的資産移動→著しい不適当性」理論を事実認定に援用)


③ 高裁判断で通ったと考えられる被告主張まとめ

主張項目 地裁判断 高裁推定判断
通達選択権の有無 あり(納税者勝) あり(前提)
負担軽減の程度 著しい軽減ではない 著しい軽減性がある(実質判断)
資産移動の租税回避性 否定 一定の回避性認定
通達6適用の合理性 否定 合理性あり → 通達6適用可

④ 令和4年最高裁判決との関係性

高裁はおそらく以下のロジックを取ったと推定されます:

  • 令和4年最高裁の基準を本件に準用

  • 軽減割合だけでなく、資産移動の意図、時期、合理性を総合評価

  • その結果、本件も「通達適用が著しく不適当」と判断


⑤ まとめイメージ

高裁は評価通達の選択制度自体を否定していない
ただし、その選択の行使が租税回避的経済実態を伴う場合は、通達6の例外発動が可能だと整理した


補足

東京高裁は、以下の点を重視したと推定されます:

✅ 相続税負担の軽減の意図の有無

  • 被相続人・相続人は、近い将来の相続発生を予測し、相続税負担軽減のために預金対策として新株発行・配当等を実行した

  • これは**同時に「持株外し」**と整理

「特段の事情」認定

  • こうした行為は「総則6項の適用が必要な特段の事情」に該当すると判断

  • 令和4年最高裁判決の基準を援用(実質的租税負担の公平性が損なわれる場合)

負担軽減割合の数量的基準に限定せず「意図・経緯・実態」を重視

  • 一審地裁は「減額は最大でも5割程度、しかも通達の選択制度の範囲内」と判断

  • これに対し高裁は、**「通達選択の行使の仕方が租税回避目的で利用された事案」**と評価

  • 預金対策としての時価発行増資の意図性が重視された

現在、高裁判決文、情報公開で請求中なので、入手後報告します

以上は東京地裁判決の国側主張よりの推定となります